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掲載日:2022年6月17日

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ワークショップ活動の記録「はじめての彫刻 足されるかたち/削られるかたち」

「はじめての彫刻 足されるかたち/削られるかたち」

  • 日時:2021年5月30日(日曜日) 午前10時~午後4時
           6月27日(日曜日) 午前10時~午後3時
  • 場所:創作室1
  • 担当:細萱航平(教育普及部職員)
  • 参加者数:1日目8人、2日目6人

 1日目 5月30日(日曜日)

 ひとつの同じモチーフを塑像と木彫それぞれでつくり分けてみることで、素材や制作手法がかたちにどのような影響を与えるか体感し、彫刻をより多角的に見られるようになることを目指したワークショップ。

 当初は2021年の4月から5月にかけての開催を予定していたが、同年2月13日に発生した福島県沖地震による休館および新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点による日程の変更等で延期し、上記の日程で実施した。その後、参加者には各自都合の良いときに創作室を利用して制作を進めてもらい、6月27日に、まとめとして各々の制作物を前にしながら彫刻について議論を深めた。

 1日目は塑像と木彫の基本的な造形方法の確認を行った。まず、彫刻について参加者それぞれがどんなイメージを持っているかを確認し、近代彫刻が培ってきた感覚について説明することで、彫刻について考える導入とした。それを実際に制作しながら考えるために、参加者にモチーフとしてかぼちゃをひとつずつ配り、それを塑像と木彫それぞれで制作することとした。
 まずは塑像の準備と進め方について実践した。はじめに粘土板に固定された塑像用アングルに、心棒となる角材を濡れた麻紐で縛り付けるところから始めた。角材をアングルに縛り付け、縛り付けた角材の上部に芯となる木材ブロック2つを同様に縛って固定した。この芯に粘土をつけ、かぼちゃのかたちをつくりはじめた。参加者によってはあっという間に粘土をつけ終わっていたが、粘土の定着が不十分な様子が散見されたため、木材で粘土を叩くなどして、粘土をしっかりと付けていくよう促した。昼休憩の前に、粘土が乾燥しないように、途中経過の粘土を濡れタオルで覆い、それにビニールをかぶせて口をふさぐところまでを行った。

 活動の様子1 活動の様子2

 午後には木彫に取り組み始めた。一辺15cmのヒノキの立方体を参加者に一つずつ渡し、そこからかぼちゃのかたちを彫り出すこととした。ヒノキは柔らかく木目が素直なため、彫りやすい反面、木目を意識して彫らないと木目に沿って容易に木が剥がれてしまう。今回はヒノキを使うことでそのような木の性質を体感することをねらった。
 立方体の材を用意したため、かぼちゃのかたちを彫るためには落とさなければいけない部分がある。そのため、まずは立方体の三面に簡単にかぼちゃのかたちをデッサンしてもらい、それに沿って必要のない部分をのこぎりで切り落とした。参加者によってはのこぎりの作業が重労働になるため、最低限落とした方が良い部分のみのこぎりで落としてもらった。
 その後、進行度合に合わせて準備のできた参加者からノミで彫る段階に移った。ノミは、丸ノミと先端のまっすぐな平ノミ、かまぼこ型に研いだ平ノミの三種類を中心に用意し、幅も複数種類を準備した。このとき参加者には、初めから細かいかたちを追うのではなく、大きなノミで大きなかたちを追う意識で彫ることを勧めた。参加者の多くはのこぎりの作業に汗を流し、初めてノミで木を彫る感覚に四苦八苦していたが、一度ノミの使い方に慣れてくると、木を彫る感覚を楽しめているようだった。

 活動の様子3 活動の様子4

 初日以降は、各自で塑像と木彫を進められるところまで進めることとした。このとき創作室を利用して進める参加者には、適宜講師が相談に応じた。特に木彫に関しては、進行度合に合わせて、背割り部分の埋め方などのアドバイスも行った。なお、ノミは講師が定期的にメンテナンスを行うことで、切れ味を維持した。

 2日目 6月27日(日曜日)

 2日目には、各自が進められるところまで進めた塑像と木彫のかぼちゃを持ちよった。まずは、講師から参加者に約一ヶ月間かけて制作した所感を確認した。全体的に木彫に対しての言及が多かったが、粘土と木の違いや、道具と素材がかたちに与える影響について触れたコメントもあった。
 制作をして得た感覚を踏まえ、実際に展示室の作品を見にいくこととした。特に佐藤忠良のブロンズ像とコレクション展示「現代の木彫」に出品されていた作品を見た。1時間をかけて、特に参加者の多くは、木彫作品により時間をかけ、鑑賞している様子がうかがえた。
 午後には、「現代の木彫」の展示を担当した土生和彦学芸員に、展示と木彫に関わる話を伺った。話の後の質問では、仏像の古色と極彩色、作品の修復と再現、鋳造作品と石膏原型、作品のオリジナリティに関する話まで議論が広がった。

 活動の様子5 活動の様子6

 その後、改めて参加者それぞれの作品を前に、作品の違いを話し合った。同じかぼちゃをモチーフにしていても、どの素材、道具を使ったか、どのように進めたかによって、それぞれがまとう雰囲気は異なる。それを踏まえて、更に講師が彩色した木彫のかぼちゃ、石膏に置き換えたかぼちゃ、プラスチックのおもちゃのかぼちゃを前に並べて見比べることで、そのモノ自体の存在感、与える印象などの違いについて問い直した。最後に、木や塑像などを中心に、多様なアプローチで作品をつくる作家の作品を紹介し、まとめとした。

 活動の様子7 活動の様子8

 全体として、彫刻の制作方法の基本に触れたことで、彫刻の鑑賞を深められたように思われる。参加者の一人から「ブロンズ像が単なるブロンズの塊に、あるいは中身は空洞に見えるかと問われ、そのつもりで見たが、中身は充実している、筋肉などがあるように見えた」という旨の感想が出たのは、そのことを示している。また、展示室2のおよそ半分の面積で行われた「現代の木彫」を30分以上かけてじっくり鑑賞していたことも、制作する過程を経て参加者が木彫作品を見るポイントを習得できたことの表れだろう。彫刻の制作過程を知ることで、かたちを与えられた素材がその素材の意味以上の別の表象を獲得するという、彫刻的なイリュージョンを感じることができたのではないだろうか。

 

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