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8月上旬の牧草地・雑草地・畦畔におけるすくい取り調査(※)では,発生地点率は緩やかに増減を繰り返しており,すくい取り虫数は平成22年以降ほぼ横ばいの状況が続いています(図1)。
8月中旬の水田におけるすくい取り調査では,発生地点率は平成22年以降は29年と30年を除いてほぼ横ばい,すくい取り虫数は平成24年から増加し以降ほぼ横ばいとなっています(図2)。
平成13年,16年,17年,18年には警報を発表し,防除対策の徹底を呼びかけました。
※すくい取り調査は,柄長1m,36cm径の捕虫網を20回振って虫をすくい取る調査方法。発生地点率は巡回調査ほ場のうち発生ほ場の割合,すくい取り虫数は全地点の捕獲虫数の平均値。
図1 牧草地・雑草地・畦畔における斑点米カメムシ類の発生量の年次推移(8月上旬)
注)病害虫防除所巡回調査ほ場におけるすくい取り調査
すくい取り虫数は成虫と幼虫の合計,平年:過去10か年平均
図2 水田における斑点米カメムシ類の発生量の年次推移(8月中旬)
注)病害虫防除所巡回調査ほ場におけるすくい取り調査
すくい取り虫数は成虫と幼虫の合計,平年:過去10か年平均
着色粒による2等米以下への落等率は平成14年に高くなり,以降格付け理由の上位3位に入っています。特に平成15年と17年,令和2年は被害が多発しました(図3)。
令和2年は斑点米被害を助長する割れ籾の発生が多く,着色粒の割合の増加に影響したと考えられます(図4)。
図3 着色粒による落等率の年次推移(宮城県)
注)東北農政局公表(確定値,令和3年産は令和3年10月末現在の速報値)による
落等率は総検査数量に対する割合,平年:過去10か年平均
図4 割れ籾発生率の年次推移
注)病害虫防除所巡回調査ほ場における50穂抽出調査 平年:過去10か年平均
発生源対策として,水田周辺の牧草地,雑草地,畦畔の草刈りが実施されています。
薬剤防除は,主に出穂期以降に実施されています。延べ防除面積は,平成12年から増加して平成18年以降はほぼ横ばいとなっています(図5)。平成23年は東日本大震災の影響で減少しましたが,その後震災前の水準まで回復し横ばいが続いています。
図5 斑点米カメムシ類の延べ防除面積の年次推移
注)延べ防除面積は農薬流通量からの推定値。水稲作付面積は東北農政局統計部による。
平年は過去10か年平均
病害虫防除所のすくい取り調査では,県内全域でアカスジカスミカメが主要種となっています(図6)。
また,大型のクモヘリカメムシが県南部の一部地域で確認されているほか,県北東部の一部でも確認されており,生息域が拡大していると推測されます。
※参照 普及に移す技術第92号参考資料15「発生源における斑点米カメムシ類の発生実態」(PDF:232KB)
※参照 普及に移す技術第92号参考資料16「クモヘリカメムシの発生生態」(PDF:399KB)
※参照 普及に移す技術第96号指導活用技術16「クモヘリカメムシ(斑点米カメムシ類)の分布域の拡大」(PDF:526KB)
図6 水田における斑点米カメムシ類種構成割合の年次推移(8月中旬)
注)病害虫防除所巡回調査ほ場におけるすくい取り調査,平年:過去10か年平均
カスミカメムシ類幼虫のほとんどがアカスジカスミカメの幼虫と考えられる
病害虫防除員からの情報で県南部で実施されているすくい取り調査の結果,病害虫防除所の調査結果と同様に主要種はアカスジカスミカメでした(図7)。
また,クモヘリカメムシのすくい取り虫数は年次変動は大きいものの平成25年以降増加している傾向がみられます(図8)。
図7 斑点米カメムシ類種構成割合の年次推移(7月上~中旬, 病害虫防除員情報)
注)牧草地,雑草地,畦畔,水田におけるすくい取り調査
県南部(白石,蔵王,七ヶ宿,大河原,村田,柴田,川崎,角田,丸森各地域)77~113地点
図8 クモヘリカメムシのすくい取り虫数年次推移(7月上~中旬, 病害虫防除員情報)
注)牧草地,雑草地,畦畔,水田におけるすくい取り調査,平年:9か年平均(H25~R3)
県南部(白石,蔵王,七ヶ宿,大河原,村田,柴田,川崎,角田,丸森各地域)77~113地点
アカスジカスミカメ | アカヒゲホソミドリカスミカメ | フタトゲムギカスミカメ |
---|---|---|
体長4.6~6mm 宮城県の斑点米カメムシ類の最重要種 体色はやや光沢がある黄緑色 前翅会合部に橙赤色の太い縦条をもち,触角と腿節も赤い |
体長4.5~6.4mm 体型は細長い 体色は淡緑色で触角は赤色 |
体長6.8~8mm 体色は緑色の個体と淡褐色の個体がいる 後腿節先端付近に大小2本のトゲをもつ |
クモヘリカメムシ | ホソハリカメムシ | オオトゲシラホシカメムシ |
---|---|---|
体長15~17mm 体型は大型で細身 体色は緑色だが,死後は黄褐色に変色する 宮城県では主に県南部に分布するが,令和2年に県北東部でも確認された。 |
体長9~11mm 体色は黄褐色 前胸背の両角は側方に突出し,針状にとがる |
体長5~7mm 体色は淡い灰褐色 頭部および腹部下面は銅色光沢をもつ黒色となる |
カメムシサイズ比較
斑点米は,カメムシ類が水稲の籾に口針を突き刺し,吸汁加害することにより発生します。斑点米における黒変は,カメムシの吸汁加害で生じた傷口から細菌類が侵入して変色したものです。加害しても黒変せずに,白濁したままの「白斑粒」となる場合があります。
宮城県で見られる斑点米には下の写真のように頂部加害型,側部加害型,無差別加害型の3つの型があります。
本県で発生量の多いカスミカメムシ類は,籾のふ先を選択して穿孔するため,主に頂部加害型の斑点米を形成します(下図参照)。
頂部加害型 | 側部加害型 | 無差別加害型 | |
---|---|---|---|
|
![]() 頂部+くさび型 |
![]() |
![]() |
加害部位 内外穎の頂部の隙間や組織の柔らかい「ふ先」から口針を挿入して吸汁するため子実粒先端に被害が現れます。また,くさびを生じることもあります。 |
加害部位 籾の内外穎の縫合部の隙間から口針を挿入して吸汁するため側部に被害が現れます。 |
加害部位 口器が強い大型のカメムシ類は内外穎のどの部分からでも穎を貫通して吸汁するため,子実粒のいたるところに被害が現れます。 |
カメムシ類以外の害虫や糸状菌によって下の写真のように子実粒に斑点が形成されることがあります。通常,その被害はカメムシ類によるものより大きくはなりません。
くさび米 | 腹黒米 |
---|---|
![]() |
![]() |
くさびのみは斑点米ではありません。 |
糸状菌(Trichoconiellapadwickii)により,子実粒の腹部に黒色の斑点が生じます。被害粒を湿室に置いておくと菌糸が生じます。 |
通常,本県の主要品種である「ひとめぼれ」の出穂期は8月上旬頃ですが,気象条件により出穂が早くなった場合,アカスジカスミカメの第1世代発生盛期(7月下旬頃)との間隔が近くなり,本田侵入量が増加することにより,斑点米の発生が増大する危険性が考えられます。
斑点米カメムシ類は,イネが出穂する前は牧草地や雑草地に生息しており,イネが出穂すると水田に侵入します。したがって,水田の周辺に牧草地や雑草地などがあるとカメムシ類の水田への侵入が多くなり,斑点米の被害も多くなります。
出穂前後や登熟期間前半に低温や少照が続き,出穂がばらついたり,登熟が長引くような条件下では,カメムシ類の加害期間が長引き,被害が多くなると考えられます。
アカスジカスミカメやアカヒゲホソミドリカスミカメなどのカスミカメムシ類は,割れ籾が発生した場合には籾の開いた部分を加害するので,側部加害型の斑点米が多くなります。
割れ籾は,7月(幼穂形成期)の低温や日照不足によって籾が小さくなり,8月(登熟期)に高温の影響で登熟が急激に進むことで発生しやすくなります。したがって,冷害年や7月と8月の気温較差が大きい年は注意が必要です。
水田雑草のイヌホタルイやヒエ等は,水稲の出穂前から穂をつけます。アカスジカスミカメはこれらの雑草の穂に産卵して水田内で増殖するため,水田雑草が多発しているほ場では斑点米被害がより多くなる危険があります(図9,図10)。
イヌホタルイの穂に寄ってきたアカスジカスミカメ
図9 イヌホタルイの有無とアカスジカスミカメのすくい取り虫数の推移(8月上旬,中旬)
注)令和3年病害虫防除所巡回調査ほ場におけるすくい取り調査
イヌホタルイの有無は8月上旬時点
カスミカメムシ類幼虫のほとんどがアカスジカスミカメの幼虫と考えられる
図10 イヌホタルイの有無と斑点米被害粒率(令和3年)
注)病害虫防除所巡回調査ほ場における50穂の抽出調査,玄米粒厚1.8mm以上
宮城県の主要種であるアカスジカスミカメは,卵で越冬し,春にふ化して幼虫となり,5回脱皮を繰り返した後成虫になります。卵越冬して発生する世代を越冬世代,越冬世代成虫が産卵し,その卵から発生した世代を第1世代と呼称し,その後同様に第2世代,第3世代と繰り返されます。秋になり日長が短くなると,メヒシバなどのイネ科雑草の穂に休眠卵を産んで越冬に備えます。
アカスジカスミカメは,イタリアンライグラス,イヌホタルイ,ノビエなどの牧草地や雑草地で繁殖し,出穂期になると第1~2世代成虫が水田へ侵入して斑点米を発生させます。
初中期除草を確実に実施し,アカスジカスミカメの水田への侵入及び斑点米被害を助長するイヌホタルイ,ノビエなどを水田内に残さないないようにします。
※参照 普及に移す技術第81号参考資料「イヌホタルイの発生がアカスジカスミカメ被害に及ぼす影響」(PDF:495KB)
イヌホタルイではスルホンウレア系除草剤抵抗性が発現している可能性があるので,前年除草効果が低かったほ場では除草剤の選択に留意します。
ほ場に残ったイヌホタルイ等は,穂が出る前の7月上旬までに除草を行います。
6月下旬以降の追加除草の要否判断については以下を参照ください。
※参照 普及に移す技術第88号普及技術「イヌホタルイ発生量に基づく斑点米被害リスク評価」(PDF:224KB)
水田周辺の牧草地は,アカスジカスミカメの密度を低くするため,幼虫主体の時期である7月中旬までに刈り取りを行います。
※参照 普及に移す技術第81号参考資料「斑点米カメムシ類の繁殖地におけるイネ科植物刈り取りによる増殖抑制効果」(PDF:418KB)
※参照 普及に移す技術第82号参考資料「アカスジカスミカメの繁殖地の草刈りによる斑点米被害の抑制」(PDF:240KB)
畦畔は,雑草の穂が出ないように管理します。
水稲の出穂10日前までに畦畔の草刈りを終えると,斑点米カメムシ類の水田への侵入を軽減できます。
薬剤防除は,水稲の「穂揃期」と「その7~10日後」の2回防除が基本です。
水田内にイヌホタルイが残草している場合は,1回目の防除を「出穂始~穂揃期」に早めます。
※参照 普及に移す技術第83号参考資料「イヌホタルイ発生水田におけるアカスジカスミカメの防除適期」(PDF:181KB)
アカスジカスミカメの多発条件において効果の高い薬剤については,以下の資料を参照してください。
※参照 普及に移す技術第93号参考資料「アカスジカスミカメの多発条件下における殺虫剤による茎葉散布処理の効果」(PDF:347KB)
※参照 普及に移す技術第94号参考資料「アカスジカスミカメの多発条件下における殺虫剤による茎葉散布処理の効果(追補)」(PDF:316KB)
斑点米の許容限度を超えると米の等級が低下し,生産者の所得にも影響します。
斑点米は着色粒に分類され,着色粒が1,000粒に2粒以上入っていれば1等米から2等米に落ちてしまいます。
すし1貫が約500粒ですので,ちょうど斑点米が1粒入っているだけで,格付けが下がることになります。
品質の高い米を生産するためにも斑点米の混入には十分注意しましょう。
等級 | 1等米 | 2等米 | 3等米 | 等外 |
---|---|---|---|---|
混入最高限度(%) | 0.1 | 0.3 | 0.7 | 5.0 |
お米の1,000粒の目安は,にぎりすし2貫位です。
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