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掲載日:2024年1月18日

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ワークショップ活動の記録「刷る/切る/綴る 版画から本へ」

「刷る/切る/綴る 版画から本へ」

  • 日時:2022年12月17日(土曜日)午前10時~午後4時
       2022年12月18日(日曜日)午前10時~午後4時
  • 場所:創作室2
  • 講師:常田泰由(版画家)
  • 担当:細萱航平(教育普及部職員)
  • 参加者数:18人

版画家の常田泰由氏を講師として招き、版画や製本の過程を通じて、予期しないイメージと出会うワークショップを行いました。

氏は木版画に加え、ドローイング、コラージュ、製本など多くの技法を使って制作を行い、そのどれもが数色の色面とシンプルなかたちからなるイメージを提示します。しかしそれらは、数年前に描いたドローイングを基に版木を制作したり、過去の版木と組み合わせて多色刷りを試みたり、裁断した版画を組み合わせて本としたりといったように、意識的でない操作の結果の中から氏によって偶然に発見されたイメージです。

このワークショップでも、版画やドローイングを裁断したり、それらを組み合わせたりする中で、自身の意図を超えたイメージを探すことを試みました。

1日目 12月17日(土曜日)

基本的な制作過程がイメージできるようになることを目指して、無線綴じで8cm×8cmの冊子を作ってみるとともに、その過程を通じて実際に予期せぬイメージを得る方法を実践しました。

まず、参加者に4つ切りのニューキャンバスペーパーを数枚配布し、ここに絵具を除いた様々な描画材を使ってドローイングを行いました。考え過ぎず手を動かして描くように講師から説明がありましたが、はじめは多くの参加者が自由に描くことの難しさを感じていました。しかし、講師がデモンストレーションとして描く様子を見た後は、比較的速やかに描く活動に取り組めていました。多くの参加者は線や色面、丸三角四角などを組み合わせ、思い思いのイメージを描きました。

次に、このドローイングを8cm四方の紙片へと裁断しました。裁断することで、紙に描かれたドローイングが意図しないかたちにトリミングされ、思いもよらないイメージと出会うことができるようになりました。更に、できあがった紙片を他の参加者の紙片と交換できる場所を用意し、それぞれが多様なページを手元に集められるようにしました。これにより、自分では想像していなかったイメージを見付けることができるようになりました。こうして集められた紙片を机の上に広げ、見開きのページを想定して2枚一組として組み合わせていくことで、冊子の構成を決めました。参加者の多くは、次々と予期しない組み合わせが表れることに熱中している様子でした。また選択肢の多さから、早々に完成を考える事から方向転換し、直感的にページを構成していくことに臨むようになった参加者も見られました。
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ページの構成が決まったら、順番に注意しながら紙片のペアを表、裏、表、裏…となるように順番に重ね、その背中にボンドで寒冷紗を貼ることで、無線綴じのかたちにしました。ただし、このままでは紙片の裏も白紙のまま見えているので、この裏同士をボンドで貼り合わせることで、体裁を整えました。机の上に紙片を広げていたときと異なり、冊子として綴られることで1枚1枚をめくるという動作によって見るようになります。必然的に全てを一度に俯瞰することはできなくなり、代わりに順番に経験していくという時間性を強制的に伴うようになります。これにより、ページ同士の間に物語にも似た関係性が生まれることとなり、俯瞰して見ていたときと経験が変わります。そのため、中には物語的にページを組み上げる参加者もいました。一方で、見開きの片方を自分のドローイング、もう片方を他の参加者のドローイングとするなど、ページとして組み上げるという制約を逆手に取り、それにより生まれる繋がりを楽しむ参加者も見られました。
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同時に、講師の作品を参考作品として鑑賞してもらい、製本による表現の多様さを味わいました。講師の作品は、丸いページのものや紙やインクに工夫のあるもの、紙の中央で綴られているために両方向にページがあるものや、幾何学模様の穴がある木の箱に入っているものなど工夫に富んでおり、参加者の冊子に対する先入観をほぐすとともに、その創作意欲を刺激するものとなったようでした。

残りの時間で、講師にコラージュと製本について美学・美術史に関わる短い話を伺いました。コラージュは一般的に紙や写真を貼り合わせてつくる技法という印象があるかもしれませんが、一方で、ある文脈に属する図像や素材を切り抜き、他の文脈に挿入するものでもあり、つまりは異なる文脈を強制的に共存させる技法です。本ワークショップも、ドローイングとして描いたものを裁断し、他の参加者のつくった紙片と合わせて再構成するなど、このような意味でのコラージュとしての要素が含まれます。このことから、講師にコラージュの観点から様々な作家の作品を紹介してもらい、さらに想像を膨らませる契機としました。

また、偶然性を生かした素材をつくる方法として、講師からモノタイプについて説明を受けました。石板やガラス板の上にローラー等を使ってインクを広げ、その上に紙を載せるだけで、紙にインクが転写します。このとき、板の上のインクを一部こそげたり、インクに載せた状態の紙の上をこすったりすることで、その痕跡を写し取った1枚だけの版画を得ることができます。参加者は、どのような図像が現れるかを1枚1枚楽しみながら、精力的に色や方法を試し、2日目にページとして使用できる素材を増やすことに取り組んでいました。最後に、翌日に備えて自宅にある様々な「綴ることができそうなもの」を持って来てもらうようにお願いし、1日目を終了しました。
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2日目 12月18日(日曜日)

2日目は、実際に自分なりの「本」をつくることに挑戦しました。はじめに、無線綴じ以外の綴り方の選択肢を増やすために、講師が糸綴じについてデモンストレーションを行いました。その後、参加者は、1日目の活動を通じて得た知識・技術を駆使したり、創作室や自宅にあった様々な素材を使ったりしながら、時間いっぱい本の制作に取り組みました。

制作途中にも講師や美術館スタッフが相談に乗り、参加者が想像していないような印象的なイメージと出会えるように協力しました。例えば冊子の大きさをそろえることに苦心していた参加者は、同じ大きさじゃなくても良いという講師のアドバイスが印象に残り、自分の好きなモノたちを自由に綴ることができたと話していました。スイス装を施すために厚みが欲しいという参加者は、白紙のページを大量に挟み込んでページをめくる行為にリズムを生むという海外作家の試みの紹介を受け、結果的に本への固定観念が取り払われたようでした。どの参加者もかなりの集中力で制作に入り込んでおり、組み合わせから新たなイメージを探すこと、それを本として組み立てることに夢中になっているように感じられました。半紙、トレーシングペーパーやアルミホイルなど、使用する紙にも工夫が見られ、またモノタイプ、コラージュ、ドローイング、写真など、綴りこむ紙に施す技法も多岐にわたっていました。
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全員の作品が出揃ったところで、作品を前に感じたことを話し合いました。多く聞かれたのは、ついつい考えすぎてつくってしまい、結果的に苦労したという声でした。そのことを踏まえて、偶然を利用したり感覚で選んだりしてつくった作品の方が、面白いものになったと感想を話していました。完成を意識しすぎずに素材を並べたり、直感的にそれらを組み立てたりしていくことで、思わぬイメージと出会うということが実感されたものと思われます。一方、自身が過去に集めてきた資料やつくってきた平面作品、撮った写真などを製本した参加者も多く見られました。また、表紙を皮、中のページを果肉のように見立てて柑橘類を表現したり、日めくりカレンダーのように掛けることを想定したり、本というメディア自体を遊ぶような作品も見られました。

丁寧に順序だてた講師の進行もあり、全ての参加者が自分なりの本をつくることができました。感想に多く聞かれたように、それぞれが独自に制作を進められ、互いに刺激を与え合うことの多かったワークショップでした。予期せぬイメージを探す手法として版画や製本を使うことには苦労した参加者は多かったものの、それでも発見した組み合わせを本として組み立てるときには、その感覚を味わいながら積極的に取り組んだ参加者が多かったように感じられました。実際、参加者の集中力はすさまじく、非常に密度の濃い2日間でした。

ある参加者は、溜まった紙を体よく処分できればと思い本に綴り込んだはずが、逆に全てがページになると気付いてしまい、捨てられないモノが増えてしまったと話していました。このように、今回のワークショップは、多くの参加者にとって、イメージへの印象やそれらへ向けるまなざしが変わるきっかけになったようです。
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