大和町でワイナリー事業を手掛ける株式会社みらいファームやまとの早坂美代子さん、白石市・鎌先温泉で、四季の宿みちのく庵の若女将を務める安倍由夏さん、そして、富谷市を拠点に軽貨物運送業と美容事業を展開する合同会社ムカエノ家の峰尾幸美さん。宮城県を拠点に、それぞれの業界で活躍する3人の女性経営者に、経営の心得や宮城で働く魅力、そして次世代へのメッセージを伺いました。
早坂 美代子さん
株式会社みらいファームやまと
取締役
安倍 由夏さん
四季の宿みちのく庵
若女将
峰尾 幸美さん
合同会社ムカエノ家
代表社員
峰尾軽貨物運送業「MIとらすと配送」を運営し、主に産婦人科の検体を運んでいます。また、美容師の経験を活かし、富谷市特産のブルーベリーを使った化粧品も販売しています。本日はよろしくお願いいたします。
安倍はじめまして。白石市・鎌先温泉の「四季の宿みちのく庵」で若女将を務めています。大学卒業後は東京でCAとして勤務していましたが、2019年に家業を継ぐために宮城にUターンしました。みちのく庵は、創業43年、全9室の小規模宿です。
早坂私は農業生産法人みらいファームやまとの取締役として、大和町で「了美ヴィンヤード&ワイナリー」を運営しています。自社畑100%のワインを製造し、地元の食材を活かしたレストランや宿泊施設も展開していまして、6次産業化を進めています。皆さんとお話できるのを楽しみにしてやって来ました。
峰尾私は、以前は東京に住んで美容師として働いていましたが、東日本大震災で地元の牡鹿半島が壊滅的な被害を受け、地元のために何かしたい、自分にできることはないかと思うようになりました。そんな時に、運送業をしていた叔父とともに16時間かけて物資を届けた経験から、物流の大切さを痛感したんです。その後しばらくは東京にいましたが、夫が転職を迷っていたこともあり、思い切って宮城に移住し、運送業を始めることにしました。
早坂検体を運ぶことをメインにしたのはどうしてですか?
峰尾運送業については全くの未経験だったので、まずはIndeedで営業先を探すことにしたんです。すると、ちょうど宮城県内に新設される検体研究所がドライバーを募集しているのを見つけて。同業と同じことをしていては仕事を取れないと考え、積極的に営業をかけた結果、産婦人科の検体運送というニッチな市場で事業を始めることができました。皆さんはどのような経緯で今のお仕事に就いたのですか?
安倍CA時代に仕事で海外に行くたびに、日本文化のすばらしさを改めて実感する機会が多かったんです。もともと家業を継ぐように言われていたのがプレッシャーで、一度は東京へ飛び出しましたが、両親や祖父母が大切に育ててきた宿をこのまま終わらせるわけにはいかないという思いが芽生え、旅館業を継ぐ決意をしました。
早坂私は40年以上前に夫とともに設備・土木関係の事業を立ち上げたのがスタートでした。それから不動産、社会福祉法人へと事業を拡大していきました。創業当時は収益性を最優先に考えていましたが、夫が病気を患ったタイミングで人生観ががらりと変わって。「地元・大和町に貢献したい」と強く願うようになったことをきっかけに、今から10年前、水も電気もない山を開墾してワイナリー事業を始めました。
安倍とにかくチャレンジすることですね。実際に飛び込んでみないとわからないことがたくさんあるので、「ノープレー・ノーエラー」では成長がないと思うんです。やってみて新しい道が開けることもあるし、失敗したら別の方法を試せばいい。そういう「めげない心」が経営には不可欠だと感じます。
早坂明確な目標と圧倒的な意志を持つことが大切です。日常生活でも「これをやりたい」と本気で思えば、自然とそのための方法が見えてきます。成し遂げるには他人任せにせず、自分が一番詳しくなる努力を惜しまないこと。私自身、これまで携わってきた仕事の資格はすべて取得してきました。そうなって初めて、他人を指導し、導けるようになるのだと身を持って経験しています。
峰尾私は大型免許を持っているのですが、きっかけは女性ドライバーを増やしたいと考えたからなんです。何事もまずは自分自身が率先して動くことが大切だと考えています。
早坂ずっと宮城で暮らしていますが、本当に宮城は最高です(笑)。東北の中心であり、仙台平野が広がる豊かな土地もある。都市と自然のバランスがちょうどいいということはよく言われていますが、本当にその通りですよね。さらに、「学都仙台」とも言われ、教育環境も整っています。暮らすにも働くにも、学ぶにも、宮城は最適な環境です。
峰尾私も同意見です。ただ、観光をもっと盛り上げたいですね。そのためには、若い世代のアイデアや力が必要です。私たちの世代とはまた違った、新しい視点で地域の魅力を引き出してくれることを期待していますし、宮城にはそのポテンシャルがあると思います。
安倍一度都会に出たことで、東北の人の温かさを改めて感じました。宮城県の中でも白石市はまだ知名度が低いですが、食品や工芸品、伝統産業など、たくさんの「本物」があります。私たちの宿を通じて、点として存在しているたくさんの本物の魅力が線としてつながれば、白石の良さをより多くの人に知ってもらえると考えています。それが宮城の魅力を発信することにもなりますし、白石市をはじめとする魅力的なまちがあること自体、宮城のいいところだと思います。
早坂若い人には、私たちにはない新しい視点や能力がたくさんあります。それは大きな可能性であり、その可能性を私たちに「引き出させてくれる人」に、来てほしいです。大切なのは、素直さとチャンスをつかむ力。最初は何もできなくていいので、与えられた機会を活かし、成長できる人であってほしいです。
安倍旅館業は接客業。お客様に対してはもちろん一緒に働く仲間に対しても、気づく力と思いやりが、とても大切です。言葉だけでなく、表情やしぐさから気持ちを読み取り、最適な対応をする力が求められます。また、宿の運営はさまざまな部署が連携して成り立つチームプレーなので、仲間と協力しながら仕事を進められる人を歓迎します。
峰尾指示待ちではなく、自分から行動できる人になってほしいと思います。向上心や興味を持ってさまざまなことに積極的に関わる姿勢が、社会に出てからの大きな強みになると思います。
峰尾特に若い社員との関係では、適度な距離感が重要だと感じています。あまりコミュニケーションを取らないと「そっけない」と思われてしまうし、逆に密に関わりすぎると「うざい」と思われることも。そのバランスを見極めることを意識しています。
安倍スタッフ一人ひとりに合った声かけを心がけています。また、新しいことに挑戦するときも、社員の意見をしっかり聞いて、一緒に作り上げていくスタイルを大切にしています。一方で、旅館業は長時間労働になりがちなため、シフトの柔軟性など、業界全体で考えていくべき課題も多いと感じています。
早坂社員の意見を積極的に引き出すことが、定着率を高める秘訣だと思います。例えば、フライヤーを作ってもらったら、しっかり評価し、小さな成功体験を積ませることで自信につなげます。そうした積み重ねが、誰でも発言しやすい環境づくりにつながるのではないでしょうか。
早坂素直さと学ぶ姿勢を持つことが大切です。経験のある人の話をよく聞き、その上で自分の考えを持つ。その考えを伝えるときは、反論ではなく「意志」として伝えることがポイントです。
峰尾「どの道が正解だろう」と迷うことも多いと思いますが、私は「自分が選んだ道が正解」と思っています。たとえその道で失敗しても、それは次のステップにつながる経験になる。だからこそ、失敗を恐れず、自分の意志を持って行動してほしいですね。
安倍私自身は、まさか家業を継ぐとは思っていませんでした。でも、その時々でベストだと思う選択をしてきた結果、今があります。振り返ると、すべての経験が必要なプロセスだったと感じます。学生さんには「今やっていることは、いつかのための種まき」ということを伝えたいですね。向かうべき方向が分からなくても、目の前のことを一生懸命やり続ければ、それが未来につながっていくのだと思います。