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掲載日:2012年9月10日

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農業早期復興プロジェクト/被害地域における農業経営の実態調査と地域農業再生支援/被害地域における農業経営体の実態調査/事例調査

各被災地域の実情を総合的に把握し,対象地域に応じた的確な支援内容や手法を整理するため,被害地域における農業者の実態調査を行うことで,震災の影響,対応,今後の方向性等の動向を把握し,地域農業再生対策の一助となる有用な情報とします。

被災地域の農業経営体の事例調査

(農園研 情報経営部)

東日本大震災で被害を受けた農業経営体について,地震被害の農業経営体6事例,津波被害の農業経営体3事例について,聞き取りにより実態調査を行いました。
今回の震災では,

  • 地震による施設(ブレース破断,ベンチ転倒,配管破損等)等の損壊
  • 地震による施設園芸作物の損傷(落果等)
  • 停電,断水,燃料不足による施設園芸作物の生育障害(苗の枯死,尻腐れ,奇形果等)
  • 津波による施設(ハウス等),機械(トラクター等)等の損壊
  • 津波による塩害
  • 津波による汚泥の堆積
  • 用排水施設(排水機場,排水路等)の破損による水稲作付自粛

等、多岐にわたる被害が見られました。

(平成23年9月20日掲載)

地震被害の事例

地震被害の事例表
調査対象 栗原市A農場 栗原市B農場 登米市C農場
調査月日 平成23年6月22日 平成23年6月22日 平成23年6月22日
経営品目 パプリカ トマト イチゴ
被害状況 ブレース(筋交い)が大きく曲がり、鉄骨が歪んでしまったため、天窓等の閉まりが悪くなり、ボイラーを焚いても温度が上がりづらい。
二重膜構造のハウスの二重フィルムの押さえが外れたため、隙間が開いてしまい、エアー漏れにより張りが弱くなったり、雨水が溜まったりしている。
給水タンクの1基が大破し、中の大量の水が施設内に流出。給水管も随所で破損、排水系も破損あり。
複合環境制御器の制御コンピュータ、事務室のパソコンが使用不能になり、蓄積されていたデータも消滅。
勾配により排水を行っていたベッドも、揺れでずれて勾配が変わってしまったため、排水不良や水漏れを起こしている。
自家発電装置はない。あったとしても燃料が入ってこなかったので使えなかったと思う。停電の間(1週間程度)は手潅水で対応。
2月1日定植で着果が始まる段階で、4月から出荷予定であったが、苗の3割は被害、育苗中の4,000株は全滅。
収穫は1ヶ月遅れで、品質も悪く、尻腐れ、奇形果が多く、単価も安い。本来は週3回の収穫が、週1~2回収穫しかできない。
元々の出荷先には別の所から購入してもらうようにお願いし、本来とは違う出荷先に販売した。
ブレースの破損
【大きく折れ曲がったブレース(中央)】
ブレース(筋交い)は9割以上破断(ボルトor羽子板破断)、鉄骨が根元付近から曲がり、最上部で最大10cm程度傾いている。二重ガラスは数百枚破損。
温風暖房機の破損はなし。重油は1週間後くらいから入ってきてはいたが、通常65~70円のものが90円以上と高値であったため購入はしなかった。
養液栽培システムは配管等に歪みが生じている程度で、組み直しやパッキンの入れ直し等で対応可。給水管も2,3カ所抜けた程度で、地中部の破損もない模様。炭酸ガスの配管の破損等は流していないので不明。
ベッド支柱の転倒、温水管支柱の転倒。送風ファンも停電で止まった後、多くが動かなくなってしまった。
揺れによる落果が2t車2~3台分程度あった。断水はしなかったが、停電により3日間は手潅水対応。収益率の高い4~6月の出荷がほとんどできず、被害額は4~5百万円程度か。価格は昨年の半分以下。
風を入れたところは、乾燥してしまってダメになった。根部の温度を保つことが必要であったが、ロックウールだとそれが難しい。
ストレスを受けた分、高糖度トマトになったが、元々高糖度を売りにした販売方法ではなかったので、プラス効果はなかった。
ブレースの破断箇所(修理済み)
【ブレースはボルトor羽子板が破断(修繕済み)】
鉄骨ハウス自体には特に被害はなし。ベンチ支柱の接合部プラスチック破断等によりベンチの多くが転倒。燃料タンクの支柱L字鋼が曲がりタンクが転倒、燃料が流出。側面巻き上げは、揺れにより断裂が見られる。地中給水管、炭酸ガスの配管は破損。
暖房が使えなかったことにより、花が全滅状態。残ったイチゴを避難所へ提供して、栽培は終了とした。出荷はしなかったが、価格は安かったようだ。
ベンチの転倒
【転倒した高設ベンチ】
復興状況 施設修繕費に4,000万円程度要する見込み。補助率1/2の国の交付金事業にエントリーしている。 施設修繕費に800~900万円程度要する見込み。施設はJAからのリースとなっているが、被害額が2,000万円以上でないと保険金がおりない。
二重ガラスは、内側は未修理、外側のみ自力で修繕中。ブレースは既存ボルト等で修繕、ベッド、温水管の支柱も自力で立て直し。
別の場所で育苗中で、8月末の定植に向けて、ベンチの修復を進めたい。22mm程度の直管を地面に刺して、それにベンチ支柱を差し込むようにして立ち上げる方式を予定。
登米市からの助成が事業費の1/3、500万円まで受けられる。自己資金分としてスーパーL資金を利用する。
課題等 非常用に200Vの発電機と、一定量の燃料の備蓄も必要か。 関係機関の迅速な対応(燃料の手配等)を望む。
元々、冬場の燃料高により収益性が低下している。
廃ロックウール、廃ビニールの処分が課題。産廃、廃プラとして出すと経費がかかる。被災ゴミとして対応できないものか?
地震被害の事例表 2
調査対象 美里町D農場 美里町E農場 石巻市F農場
調査月日 平成23年6月24日 平成23年6月24日 平成23年6月24日
経営品目 イチゴ バラ イチゴ
被害状況 鉄骨ハウス自体には特に被害はなし。全ベンチ東側へ転倒。内張りカーテンの巻き上げシャフトが1カ所ねじ切れた。温風暖房機は送風ダクトがベンチの下敷きになり使用不可、その後運転していない。
3月には気温がマイナスになった時もあったが、それでも何とか生育できたので、3月の暖房は必要ないのかもしれない。
給水は河川水を利用し、2日に1回だけ給水した。
倒れたベンチのままで生産を続けた。3月18日までは近所の養護老人施設等へイチゴを提供していたが、その後は5月半ばまで収穫できた。収穫できたのは1/2程度か。
ベンチの転倒
【東側(向かって右側)に転倒した高設ベンチ】
鉄骨ハウス自体には特に被害はなし。ベッドがベッドの延長方向に転倒、給水管破損、養液タンクのパイプ破損、噴霧器のレールが波打ち。
温風暖房機は当日から止めて運転していない。暖房機を止めたので、2,3日は休眠していたようだが、生育に大きな被害はない。
給水は自家発電機で河川水をポンプアップして使用。
一番単価の良い時期であったが、品質の良い物があまり出せなかった。
ベッドの転倒
【ベッドの延長方向(写真右上方向)に転倒したベッド】
鉄骨ハウス自体には特に大きな被害はなし。ブレースの張りが緩くなった。一部鉄骨を固定しているボルトが緩んでいる所もあり。
被害状況は、地盤の影響か、ハウスにより異なる。一部のハウスで、ベンチ転倒、ドアが開閉しづらい、側面巻き上げの断裂あり。カーテンの断裂等巻き取りトラブル多発のためメーカーで無償交換した。
温風暖房機は当日から運転していないので、破損の有無は不明。地中暖房の配管はどこかで破損している模様、破損箇所は不明。
電照用電球が揺れによりかなり外れて落ちた。
自家発電機はなし。借りてきた発電機で地下水を3日目くらいからかけたが、クタクタの株も多かった。
全てのハウスを生かすのは無理と判断し、1/3だけ生かすようにして、残りは止めた。
ベンチの転倒
【転倒・落下した高設ベンチ】
復興状況 5月半ばから自力復旧作業中。3条ロータリーベンチから、2条(2条植+2条植)or4条固定ベンチに変更して復旧中。1ベンチ5条植から4条植への変更であり、多少の収量減にはなるであろうが。地下暖房機は外してしまった。
日本政策金融公庫の農林漁業セーフティネット資金を利用する。申請が簡単で大変助かる。
転倒したベッドはジャッキアップして立て直しを自力復旧中。 倒れたベンチを復旧中。単に元に戻すのではなく、より揺れに強いように留め金等を工夫しながら立て直したい。
本格的修繕は、補助率1/2の国の交付金事業の状況待ち状態。自己資金分として日本政策金融公庫の農林漁業セーフティネット資金を利用する。
課題等 仲間の様子が分からない。
不要になるブロック(ベンチの土台)、直管パイプ(ベンチの移動用)の処分方法。
ベッドが倒れて支柱の長さ分通路にはみ出した状態のままでジャッジアップしているので、復旧後のベッドは通路にはみ出している。 交付金事業の動きが遅い、対象にならないケースも多いようだ。
津波被災者だけでなく、もう少し内地の被災者にも目を向けて欲しい。法人経営はまだ良い方で、個人農家にももっと手を差し伸べてほしい。
共済金も減価償却分を見られると、修繕費には全く足りない。

津波被害の事例

津波被害の事例表
調査対象 名取市G農場 山元町H農場 山元町I農場
調査月日 平成23年6月28日 平成23年6月29日 平成23年6月29日
経営品目 水稲、麦、大豆、露地野菜、施設野菜、農産加工 水稲、大豆、稲ワラ販売 水稲、イチゴ
被害状況 経営水田の9割が冠水、今年度の水稲作付は皆無、冠水を免れた圃場も、排水機場の津波被害により排水不能のため、作付自粛。
事務所手前の道路面で膝上まで冠水したが、事務所敷地は盛土しているので施設被害はない。圃場に置いていたトラクター3台(23ps、34ps、65ps)、テッダーレーキ、ロールべーラー、キャリアダンプが浸水大破。
水稲育苗受託に対応するためイチゴハウス4棟のイチゴ栽培を中止。
作業舎等は70cm浸水、乾燥機は制御基盤、モーターが浸水したため、地震保険上、全損扱い。
トラクター、ロールべーラー等は、常磐道西側の圃場でワラ集めしていたため、被害なし。コンバイン(6条刈)は70cm浸水したが大丈夫、大豆播種機も浸水したが修理した。田植機(8条植)は全損。
米低温貯蔵庫内にも浸水、準備していた種籾は軽トラック1台分被害、ストックしていた昨年産の米は1,000袋中300袋被害、冷蔵機は全損で交換した。色彩選別機は大丈夫だった。
パイプハウス等は全て津波で流出、全損。 水田も冠水、今年度の作付はできない。
今年イチゴ生産が可能な農家は6戸(山沿いの1戸と高設栽培農家5戸)のみで、その農家でも生産可能面積は従来の半分以下。
復興状況 2筆45aで試験的に除塩作業後の田植えを行っている。代掻き6回実施でも塩分は0.4%までしか低下しなかった。農機具メーカーと共同で水田における除塩実証ほを設置、雨水と農業機械を活用した営農的手法の組み合わせによる除塩効果を実証試験中。耐塩性作物として綿花の試験栽培も実施。
JAから水稲育苗作業を受託、育苗ハウス5棟+イチゴハウス4棟で対応。大豆播種35haを受託、自作地も含めて58ha播種実施。近隣地区でのひまわり播種作業70a受託。これまで受託していた排水機場への給油作業も排水機場の被災により中止。
種籾があるので、もち米生産5ha程度を角田市、丸森町の農家へ委託。
水稲は5haのみ作付け。亘理町、山元町内での大豆作業38haを受託し、播種を行った。今のところ発芽は順調。
もち加工会社へのもち米販売は、昨年産で生き残った米300袋を販売し、不足分は知人から販売してもらうこととしている。うるち米の販売は直販が多いが、今残っている分と今年作付けした5ha分だけを販売し、他からの購入等はしない。
排水機場、排水路が復旧すれば、来年からでも水稲生産を再開したい。20ha程度は栽培できるだろう。現在の機械装備等では、水稲40ha、大豆30ha程度が限度、機械装備を増やせばそれより多くはできるが、できるだけ自分の目が行き届くような栽培を心がけたいと思っている。ただし、乾田直播を導入すれば、水稲は100haでも150haでも可能だろう。
今は、避難指示地域なので、何もできない。
JAではイチゴ団地を設置し、若手生産者を中心に利用希望をとったが、利用面積が20aまでで、ハウスも最低限の華奢なもので、補強は自己負担のため、4戸の利用にとどまっている。利用している農家も、20a規模では労働力2人で十分なので、本人ではなく、両親が生産している。
地域のイチゴ生産農家約120戸(うち35歳以下の若手は23名)のうち、水稲主体3戸、イチゴのみ5戸、その他は水稲+イチゴであるが、水稲を止めると考えている人が8割、イチゴは続けたいと考えている人が6割(若手は100%)で、水田を供出するので、畑を集約してほしいと思っているようである。
住宅が残った人の中には、自宅の近くでイチゴ生産を再開したいと希望している人が多いが、若手23名中住宅が残ったのは1名のみで、若手は自宅近くにこだわりは少なく、若手だけで集まって団地化したいという希望はある。
団地化では、水源の確保、販売方法の検討、機械の共同化等を検討しているが、個別経営で機械の共同化のみを志向する人もある一方、若手の3,4割は全面共同化を希望しているが、それでも息子にも継がせたい等の意識もあり、企業化は難しい。
課題等 復興組合の立ち上げが進んでいない。早く復興組合を組織して、復興作業に取りかかりたい。
年間を通じての仕事を確保していかなければならない。水稲の作付は無くても、借地地権者への年貢(80kg/10a)は発生するので、その支払いをどうするかが課題。米の顧客に対しては、卸業者等から購入してでも対応していきたい。
排水機場が復旧すれば、来年度からは栽培を再開したい。基盤整備済み地区の復興は早いと思うが、沿岸部等の未整備地区は基盤整備しないと復興は進まないだろう。基盤整備も地権者負担が0近くならないと、なかなか取り組めないだろう。
原発から65km圏内であり、放射能被害がもっとも心配、せっかく生産しても放射能被害で販売できないことも懸念されるので、本格的に復興作業に取りかかって良いものなのか悩むところである。その辺を見極めながら徐々に復興作業に取りかかりたい。
米価の低い現状では、1/2の補助では対応できない。米価は15,000円ぐらいないと。
山元地区は現状のままでの水田復旧は難しいだろう。この際、基盤整備して5ha区画ぐらいにした方が良いのでは。復興計画の策定に当たっては、実際に生産を担っている農業者の意見を反映した設計等をしてほしい。
堆積汚泥の除去作業は大変なので、重金属等の問題がない場合は、除去しないで天地替えしてしまった方が良いのでは。水稲作付自粛地域には用排水費が入ってこないので大変。
来年3月に親株の定植ができなければ、来年も作付はできない。
若手だけで集まって団地化したいという希望はあるが、土地等が全て親名義のため、団地用地の代替え地に供出できる土地も財産もないので、具体化は難しい。
土地の買い上げか85%以上の補助率の事業が必要。補助事業もハウスの設計等に自由度がないと利用しにくい。
イチゴ栽培の再開地は、水源の確保の問題から国道6号線より西側では難しく、天候の変化に応じたこまめなハウス管理の観点から自宅から片道5分以内のところが良い。団地化する場合には、ハウスだけでなく、作業舎、管理舎等の付帯設備も必要。

お問い合わせ先

農業・園芸総合研究所情報経営部

名取市高舘川上字東金剛寺1(代表)

電話番号:022-383-8119

ファックス番号:022-383-9907

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