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掲載日:2017年8月17日

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ワークショップ|活動の記録「クレーの制作方法」

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ワークショップ「コレクションから-パウル・クレーの制作方法」

  • 日時 2017年5月21日(日曜日)10時00分~16時00分 参加者 11名
  • 場所 創作室2、コレクション展示室ほか
  • 担当 松崎なつひ(当館教育普及部学芸員)

午前―イントロダクションと作品鑑賞

宮城県美術館では、今年度から、展示室で所蔵作品を「見る」ことと、創作室での実技体験を組み合わせる「コレクションから」というワークショップをはじめた。5月は、当館のコレクションの中でも代表的な作家であるパウル・クレーについて、とくに油彩転写という技法を用いた「線」の表現に注目して開催した。まずは自己紹介を兼ね、参加の動機や、クレーについて関心のあることを参加者が一人一言ずつ話した。「作品が好きだが、クレーについてはよく知らない。」「作品を見ると、どうやって描いたのだろうと不思議。」などの発言が出た。

説明

担当者から簡単に流れの説明をした後、さっそく展示室で作品を見た。当日は、初期の銅版画から中後期の絵画まで,クレー作品が8点展示されていた。とくに、油彩転写技法が使われた《Ph博士の診療室装置デッサン》と《綱渡り師》という2作品を丁寧に見た。全員が一時間以上熱心に見入っていた。

鑑賞 展示室

午後(1)―クレーの「線」について解説

午後は、展示室で見てきた作品について振り返ることから始めた。まず、クレーにとって、線は何か描くための補助的な存在ではなく、一つ一つに性格があり時間性や空間性を持った固有の表現の一つだったこと、クレーが作品を分断したり回転させたりすることで、予想外のイメージが生まれるプロセスを大切にしていたことを、クレーの言葉や作品画像などを頼りに確かめた。その間に、スタッフが油彩転写紙を準備。今回はトレーシングペーパーに溶き油で溶いた油絵具を塗り、しばらく乾燥させて作った。

解説 制作

午後(2)―油彩転写による線描体験

いよいよ、油彩転写の技法を使って実際に制作を体験した。今回はクレーの制作プロセスに近づけるため、敢えて手順を決めて行った。

手順1:あらかじめ一本だけ線が引かれた紙に、「成長」というテーマで同じ線をあと4本足す。

線描体験1 線描体験2

手順2:紙を横向きにして、「街」というテーマであと5本足す。

ここで、各自が描いたイメージを互いに見た。皆の紙をつなげると面白いと気づき、一体感が出る組み合わせと、全く異なる印象になる組み合わせを探して楽しんだ。

線描体験3 線描体験4

線描体験5

手順3:自分の紙を二つに切り、切った紙を再びつないで新しいイメージを作る。全員のものを見比べてみる。

分断と再構成の作業を自ら行ってみることで、クレーは、最終的な画面の仕上がりを想定しないものの、描く線同士の関係性(構成)については最初からかなり計画的に考えていたのではないか、という気づきがあった。

線描体験6 線描体験7

手順4:できたイメージを油彩転写する。再構成したイメージが、転写によってさらに変化することを体験。

線描体験8 線描体験9

線描体験10 線描体験11

午後(3) まとめ

当館所蔵のクレー作品《綱渡り師》には、ところどころインクのこすれたような黒い部分が見られる。これは、転写をするときに手がすれたりしてついたものと思われる。また、転写された線は元の絵よりぼんやりとした輪郭になったり、少しずれたりしている。参加者の作品にも、同じような擦れやずれが見られ、画面に奥行きや浮遊感など、元の作品にはなかったさまざまな変化が生まれた。クレーはこのような意図せず起きる変化を期待して、わざわざ転写という方法を取り入れていた可能性があることを実感した。最初の一本の線から転写までのプロセスを体験したことで、クレーの画面作りの、目で見える以上の複雑さを実感し、最後にもう一度展示室でクレー作品を鑑賞して終了した。

再び鑑賞

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