第3回 障害のある人もない人も共生する社会づくり条例(仮称) 協議関連意見 2019年10月18日 及川智 1.第2回検討会に関する補足意見 前回検討会における「県民の役割・責務」の議論で、“障害者の役割・責務”について「当事者が社会的障壁の除去(差別解消)を求める発信」を明記する旨に賛同する意見があったが、あらためて明記することに反対する。意見には障害者が啓発活動を行う役割の明記、といったようにグラデーションはあったものの、基本的には障害者のみを切り出して、役割(努力義務)を担わせる、ということであったように思う。  まず、障害者が自らのことを話し、世間に見せたりすることを通じて、自らのことだけではなく、障害と社会にまつわることを、大小問わず発信することの意義や有用性は十二分に承知し、実感している。そうしたことを意識的に取り組んできた経験からも間違いないことであり、さらに取り組みを活発に行うことが重要であると考えている。しかし、それは条例に規定すべき義務や役割ではない、というのが私の考えだ。 障害者に差別解消のための発信を課すことに慎重な理由は、ことごとく発信が尊重されない状況にあるという点である。私としては、これまで聞いてこなかった状況をどのように評価するのか、という思いがある。生活場面で起こる多くの差別は、意思が受け止められないことが原因であるからだ。 たとえば私が発信するのは、発信せずとも守られるべき権利(行使できるはずの権利)が守られていない(行使できる状況になっていない)ために、発信せざるを得ないからである。 「当事者が発信すること」が“重要な取り組みである”ということと、“役割・責務である”ということはまったくちがう意味を持つ。 障害者が意思を表明することが「悪いことなのだ」「迷惑なことなのだ」というメッセージを日常的に受け、強化、内面化していることを議論せずに「発信してください」と条例で求めることは不条理である。 「発信しないほうが悪い」といった論理も成り立つ。発信しにくい障害者は圧倒的に多い。その人々のことはどう考えるのか。そうした断絶を生む条項には反対である。 強いて言えば、県と県民の責務・役割について、それぞれ「障害者の意見を最大限尊重するよう努めなければならない」という努力義務規定をもうければいいと思う。 障害者は宮城県民である。 2.資料2 報告事項 「第2回検討会の議論について」などにおける事務局による【説明】について 当該文章などは、構成員意見に対するあからさまな否定を含むもので、看過できない。構成員意見はどの意見も意見として尊重されるべきで、事務局説明はあくまでいち見解だという認識で臨みたい。  その上で、条例の前文についても同様に、構成委員の多くが前文を設けることに賛意を示していることを事務局は重く受け止めるべきである。  あらためて前文を設けるべき旨意見表明する。 3.障害を理由とする差別の禁止について  各地の条例をみると、生活場面ごとに分類立てし不当な差別的取扱いを禁止し、合理的配慮の不提供について禁止している例が多い。 宮城県もそれにならい、以下のように規定するのが望ましい。 (1)福祉サービスの提供   @提供の拒否、利用の強制の禁止(通所、入所含む)   A不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の不提供の禁止 (2)医療の提供   @提供の拒否、利用の強制の禁止   A本人が希望しない長期の入院、加療の強制、隔離の禁止 ※障害者権利条約は、第14条で「身体の自由及び安全」について明示し、続く第15条、第16条などで「拷問、非人道的で品位を傷つけられる取扱いもしくは刑罰からの自由」「搾取、暴力および虐待からの自由」を謳っている。これに照らせば、日本の精神医療における身体拘束、隔離・強制入院は、きわめて問題で条約違反の状態だと考える。県の条例においてはこれを含め、禁止を明示すべきである。 (3)商品及びサービス(役務)の提供   @提供の拒否、制限、条件を付す等不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の不提    供の禁止  【及川が経験した事例】 入店しようとしたカフェで、追い返された。店側が独自に車いす対応として設定した席が空いていなかったためであるが、待たせるでもなかった。他の席でも十分座れたはず。 (4)労働及び雇用   @募集、採用における不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の不提供の禁止   A以下の労働条件における不利益な取り扱いの禁止及び合理的配慮の不提供の禁止    T賃金    U労働時間、休憩、休日、休暇    V昇進、降格、配置転換、休職、復職    W教育訓練、研修    X福利厚生    Yその他労働条件に関すること   B解雇、退職を強制の禁止    (5)教育(幼保・学校)   @本人、両親の志望に沿わない進学先、学級の決定の禁止   A学校生活における差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の不提供の禁止   B授業、試験における必要且つ提供可能な合理的配慮の不提供の禁止 【及川が経験した事例】  拓桃養護学校(当時)から地元の小学校への転入を希望した際、当初就学指導委員会は養護学校相当として、かなり長期間の交渉を要した。   (6)建築物・公共交通機関等の利用   @不特定多数が利用する建築物利用の拒否、制限、条件付与その他不利益取扱いの禁    止及び合理的配慮の不提供の禁止   A旅客施設及び車両等の利用拒否、制限、条件付与の禁止及び合理的配慮の不提供の    禁止  【及川が経験した事例】 ・入り口の段差で入店できない(日常茶飯事) ・ワンステップバス、ノンステップバスで「予約していない」などの理由で乗車拒否に  遭った。 (7)不動産   @売却、賃貸、転貸、貸借権譲渡において、拒否、制限、条件付与その他不利益取扱    いの禁止及び合理的配慮の不提供の禁止  【及川が経験した事例】 ・不動産業者に入店するなり「あなたに貸せる物件はありません」と言われ、追い返された。 ・月極駐車場の契約で、健常者には不要な保証人を立てるよう求められた。交渉の結果  保証人を立てずに契約した。 (8)意思表明の受領   意思表明を受けることを拒否、制限、条件付与その他不利益取扱いの禁止及び合理的   配慮の不提供の禁止 【及川が経験した事例】 ・言語障害のため言葉を聞き取ってもらえずに、話をながされる。 (9)情報の提供   @情報提供の拒否、制限、条件付与その他不利益取扱いの禁止及び合理的配慮の不提    供の禁止   A手話・点字等での情報提供の拒否の禁止及び合理的配慮の不提供の禁止 (10)性別の違い、家族形成   @同性が行うことが相当な介護について、本人の意思に反して異性による介護を受けるよう強制してはならない。   A婚姻、妊娠、出産、家事、育児等、家族形成及び家庭生活の場面において、障害の    ある人に対して不利益取扱いを行なってはならず、又は合理的配慮を怠ってはなら    ない。   B障害のある女性が障害及び性別による複合的な原因により特に困難な状況に置かれ    る場合等、その性別、年齢等による複合的な原因により特に困難な状況に置かれる    場合においては、その状況に応じた適切な配慮をしなければならない。 (11)不快な対応、ハラスメント   @障害者に対する障害に関連する言動であって、当該障害者に不快の念を起こさせる    ものに関すること。   ※障害者が日常的に遭遇し、悩まされているのがハラスメントである。したがって、条例に規定し、相談対象とすべきである。  【及川が経験した事例】 ・言葉や体の動きをまねされる。 ・「悪いことをすると及川のようになる」と言われる。 (12)災害時対応   @災害時において、障害を理由として救援、避難を拒否するなどの差別的取扱いを行    ってはならず、合理的配慮を怠ってはならない。   【及川が経験した事例】 ・大震災発災当時、指定避難所に避難できずに当時の活動拠点で避難をした。  ※虐待の定義とその禁止及びその対応について  前回検討会で示したとおり、障害者に対する虐待について、さいたま市条例を参考に定義を設け、県民、関係機関に通報義務を課すべきである。  E虐待 ア 障害者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。 イ 障害者にわいせつな行為をすること、障害者をしてわいせつな行為をさせること又は障害者であることを理由に、本人の意思にかかわらず、交際若しくは性的な行為を不当に制限し、若しくは生殖を不能にすること。 ウ 障害者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。 エ 障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置をすること。 オ 障害者の財産を不当に処分することその他当該障害者から不当に財産上の利益を得ること。 カ 保護者、養護者又は障害者の福祉サービスに従事する者が、アからオまでの事実を知りながら、又は障害者が自らの利益や健康を明らかに損なう行為を継続的に行っていることを知りながら放置をすること。 (さいたま市条例)   ※障害者虐待防止法は、病院・学校・保育所等に行政への通報義務を課していない。 さいたま市条例は、「市民、並びに事業者及び関係機関(これらの従業員を含む)」に行政への通報義務を課した。 4.合理的配慮の提供義務について 事業者においても合理的配慮の提供を義務とすべきである。日常生活の多くで事業者との関わりが不可欠であり、適切な合理的配慮が提供されることは、障害者の暮らしにとって、とても重要である。 東京都条例では、すでに事業者による合理的配慮の提供を義務としている。 【参考 東京都条例 第七条】 第七条 都及び事業者は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 2 都及び事業者は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明(知的障害、発達障害を含む精神障害等により本人による意思の表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明を含む。)があった場合において、当該障害者と建設的な対話を行い、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢、障害の状態等に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 1